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山崎 元のホンネの投資教室
第十四回 パッシブファンドの見えにくいコストについて
2005年9月2日
■投資アドバイス、最近の変化

 筆者は、昨年くらいまで、個人のマネー運用にあって、リスクをとってリターンを目指す際の「無難な選択肢」の第一番目として、「TOPIX連動型のETF(上場型投資信託)」の長期保有、という方法を挙げていました。 たとえば2001年10月に出版した「お金がふえるシンプルな考え方」(ダイヤモンド社)では、TOPIX連動型ETFを、"退屈だけれども、教科書的には勧められる"というような書き方で評価してきました。
 日経平均連動型については、2000年4月の銘柄入れ替えで、連動ファンドの投資家は、状況証拠的にみて少なくとも一割以上を損した(そのかわり証券会社の自己売買部門は2000億円以上儲かったと言われています)ので、これを避けて、TOPIX連動型を勧めたわけです。
 しかし、多くの読者もご存じの通り、TOPIXは今秋から「浮動株指数化」して三段階で内容の入れ替えが行われますし、また、浮動株指数化するということは、今後も指数の計算ウェイトが上場企業の株主構成の変化によって変わるということです。
 最近、上記の書籍の改訂作業をしているのですが、改訂版では、TOPIX型も含めて、株価指数連動型のファンドへの投資は当面手控えた方がいいと内容を改めました。アクティブファンドは信託報酬が高すぎて(たとえば年率1.5%)投資しない方がいいというのが近年の筆者の持論なので、株式のリスクをとる場合には、自分で株式ポートフォリオを作るのがいい、という意見をより強く押し出すことになりました。何やら「ネット証券を使ってくれ!」と言っているようで、ちょっと気が引けるのですが、結論としては正しいと思っています(但し、適切に運用していただかなければ、投信を買うよりもヒドイことになりかねませんが)。
 今回は、このパッシブファンドが払う「見えにくいコスト」について、やや詳しくご説明します。
■理由1 コバンザメ投資

 TOPIX(東証株価指数)や日経平均といったパッシブ運用の対象になる指数の内容変化に伴って、これらの指数を運用目標とするパッシブファンドが「ほぼ確実に損をする」現象には、大まかに二つの原因があります。一つめは、指数の内容変更に伴うパッシブファンドの売買が他の市場参加者に読まれることによって起こる「コバンザメ投資」などと呼ばれる投資行動によって起こる不利益です。
 たとえば、TOPIX(東証株価指数)は、東証一部の全上場企業の株式を時価総額ウェイトで持つポートフォリオの価値額として計算されてきました。また、TOPIXに連動するパッシブ運用の資金は、日本全体で十数兆円あるとの試算があります。
 ここで、新たに東証一部に指定替えになる銘柄があるとすると、この銘柄が東証一部の時価総額に占める割合から、この銘柄をパッシブファンドがどれくらいの株数および金額を買わなければならないかを推定することができます。そして、パッシブファンドがこの銘柄を組み入れるのは、この銘柄が東証一部に上場されてから(理想的には上場される時)なので、他の市場参加者は、この銘柄を先回りして買っておけば、東証一部に指定替えされた後にパッシブファンドの買いが入って、株価が上昇した時に売って利益を得ることが出来る公算が大きいと思われます。  このような投資行動を俗に「コバンザメ投資」(大きな鮫にくっついて餌を得るコバンザメからの連想)などと呼びますが、この種の投資は過去にそれなりの成果を上げてきました。
 この種のコバンザメ投資によって東証一部に上場する予定の銘柄の株価は上昇しがちになり、それでもパッシブファンドはこの銘柄を買わなければならないので、当該銘柄の株価はさらに上昇する可能性があるのですが、こうした買いが一段落した後には、株価は元の水準に戻りやすく、この株価下落はもちろんTOPIXに反映するので、TOPIX連動ファンドの投資家は、運用上、東証一部に指定替えになる銘柄を投資家が普通に評価する投資価値よりも高く買う結果になりやすく、それだけ損をしやすくなります。  日経平均を目標とするパッシブファンドの場合でも、日経平均の銘柄入れ替えを予想して、除外される銘柄を先回りして売り、新たに組み入れられる銘柄を先回りして買う、といった現象が起こって、結果的にパッシブファンドが損をしやすい構造になっています。
 たとえば、さる、8月25日に日経平均の構成銘柄に加わったファーストリテイリング(9983)の株価は、二週間前の8月11日(日経平均への採用発表前日)には6730円(終値)でしたが、採用発表を受けて上昇し(可能性としてそれ以外の要因もあり得ますが)、入れ替え株価である8月25日の終値には9000円をつけていました(この日の終値が極端な高値になっており、後述する第二の要因の影響も見て取れます)。ところが、入れ替えの翌日の8月26日の終値は反動安と思える8180円でした。 今後の推移を見る必要もありますが、日経平均それ自体は下方圧力を受け、日経平均連動ファンドの投資家はこの影響で損をした公算が大きいと思ます。
 この種のコバンザメ投資を行う主体は、市場に近くて取引コストが小さい証券会社の自己勘定取引が中心ですが、近年は、ネット証券の普及で、個人投資家の委託売買手数料が下がったことで、個人投資家も相当数参加するようになっています。
■理由2 「引値ギャランティー」的発注構造

 ターゲットとする指数の内容変更で、パッシブファンドが損をしやすいもう一つの理由に、パッシブファンド自身の発注方法の問題があります。
 たとえば、指数の内容が○月×日の終値を基準として入れ替わる場合には、指数に入ってくる銘柄をこの終値で買い、除外される銘柄があればやはりこれをこの終値で売り、または指数から除外される銘柄が無くても新しい銘柄が入る場合にこれを買うための購入資金を作るために残りの全銘柄を少しずつ売る必要がありますが、この売りの銘柄も、この○月×日の終値で売ることができると、理論上(もちろん現実にも)パッシブファンドのパフォーマンスは指数とピッタリに推移することになります。
 そのために、パッシブファンドの運用者がどうするかというと、○月×日の大引けよりも前の時間に証券会社に対して、自分のファンドが必要とする売り買いを、「引値(の成り行き)で」注文することになり、注文を受けた証券会社にとっては、この売買注文は相当程度確実に収益を生む非常に収益性の高いものになります。
 この点を理解するためには、俗に「引値ギャランティー(引値保証)」取引と言われる取引について知っておくと良いでしょう。これは、ある銘柄について当日の引け値で売り買いすることを証券会社が投資家(主に機関投資家)に対して保証するような形で、投資家が証券会社に注文を任せる取引です(取引の受け渡しは、市場外取引で行われることが多いようです)。
 仮に、「Aという銘柄を引け値ギャランティーで20万株買いたい」という注文を昼過ぎに機関投資家が証券会社に出した場合、証券会社は後場の取引時間中にA銘柄をたとえば10万株自己勘定で買っておいて、大引けにかけて残りの10万株を買うと、A銘柄の引け値は高く付きやすく、そうなるとあらかじめ買っておいた10万株分が儲けになる(発注した機関投資家に対しては20万株を「引け値で」渡せばいいので)という形で、絶対ではありませんが、かなりの程度確実に儲けることができます。
 この種の発注は、投資家にとっては損なのですが、指数のパフォーマンスを追えばいいだけのパッシブファンドの運用者にとっては大いに便利であり(かつ、リスクが無くて気楽でもあります)、また、証券会社は、あらかじめこの種の売買のニーズがあることを知っているので、系列の投信会社をはじめとして、パッシブ運用の運用機関に対して、入れ替え日の引け値ベースでの取引を持ちかけます。損をするのはパッシブファンドの投資家であって、証券会社もファンドマネジャーも困りません。
 コバンザメ投資とこのような取引の複合的な効果で、これまでに、日経平均の銘柄入れ替えなどの際に、殆どの場合、パッシブファンドの投資家が、毎回数十ベイシス(1ベイシスは1%の100分の1)以上の損をすることが起こってきました。パッシブファンドにとっての、こうした損失は、売り買いの時点と株数が他の市場参加者にとって予測可能で丸見えだというパッシブファンドの構造的な弱点に起因するもので、この弱点はパッシブファンドの運用金額が大きくなるほど強く表れます。
■TOPIXもあぶない

 これまで、TOPIXは銘柄入れ替えのインパクトが小さいこともあり、大きな影響を受けずにきましたが、この秋以降にTOPIXを計算する際の銘柄のウェイトをこれまでの時価総額ウェイトから浮動株ウェイト(大株主の保有株によるウェイトを除外して実際取引されている株数と推定される株数で計算したウェイトで計算し直す)に移行することが予定されており(詳しくは東京証券取引所のホームページをご覧下さい)、この移行の際にここで説明したような現象が起こってTOPIX連動のパッシブファンドの投資家が損をする可能性が大きいといえます。
 また「浮動株ウェイト」に計算方法が変わると、株主構成の変化によって、指数の内容が毎年入れ替わる(証券会社やコバンザメ投資家にチャンスを与える)ことになるので、今後継続的にTOPIX連動ファンドの投資家が何らかのコスト(たとえば年間数十ベイシスから場合によっては1%を超える)を、指数自体が下押しする形で実質的に負担することになる可能性もあります(指数との比較だけを見ていると把握できませんが)。
 これは、ETFも含めて、パッシブファンドのコスト上の有利性をすっかり吹き飛ばしかねない、パッシブファンドの投資家にとって、警戒すべき事態です。
 なお、この現象はベンチマークとされることの多い指数自体のパフォーマンスを低下させます。そのため、アクティブファンドを評価する際の比較の対象が過小評価されて、アクティブファンドのパフォーマンスが過大評価されるかも知れないといった影響が生じることも考えられます。これも、ファンドマネジャーにとって好都合な要素ですから、投資家としては癪に障るところです。
■当面パッシブファンドを避けるべき

 結論としては、これまでにも、銘柄入れ替えの影響が大きいために、日経平均やMSCIなどの指数に対するパッシブファンドは投資家に勧めにくい面がありましたが、これからはTOPIX連動型のファンドについても警戒を要するということです。
 これは、指数連動ファンドである以上、ETF(上場型投資信託)にもあてはまるので、信託報酬が低廉であることから、個人投資家の資産運用にとって有力な選択肢と言えたTOPIX連動型のETFについても、今後は、実質的なコストがアクティブファンドと較べてどちらが高いとも言いにくくなります。
 個別株を自分でポートフォリオ運用する方法の優位性がますます高まってくるということですが、運用が面倒である投資家の場合や、少額の投資資金で広く分散投資を行いたい投資家の場合には、良い選択肢が無くて困った状況です。
 低廉なコスト(特に信託報酬)で真面目な内容のアクティブファンドの登場に期待したいところです。
以上
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